官設鉄道31号形蒸気機関車


概要

 官設鉄道31号形蒸気機関車は、明治15年(1882年)と明治23年(1890年)にイギリスのBeyer Peacock(ベイヤー・ピーコック)社で14両が製造されて官設鉄道が輸入したテンダ式の蒸気機関車です。
 最初に明治15年に2両が輸入されて官設鉄道の31号、33号機関車となり、そのまま日本鉄道に貸与されて官設鉄道の番号のままで使用されました。この当時は「車両形式」という概念が無かったようですので、ここでは便宜的に最も若い番号の「31号形蒸気機関車」としています。日本鉄道にとっては初めてのテンダ式機関車で、明治16年(1883年)に開業する上野-熊谷間の営業開始に備えて輸入したものと思われます。
 次に輸入されたのは明治23年(1890年)で、12両が一斉に輸入されました。輸入後は空き番を若い番号から埋める形で106号機~128号機までの偶数番号が附番されており、官設鉄道の東部地区西部地区関係なく配置されたようです。なお、明治22年は東海道線の新橋-神戸間が全通した年にあたり、それまでの官設鉄道東部地区、西部地区という地域ごとに奇数番号偶数番号に分けて附番するという規則は無くなっていました。
 12両という多数のテンダ式機関車が輸入されたのはこの東海道線全通対応の増備であったことは容易に想像がつきます。明治22年4月16日に静岡-浜松間の東海道線が延伸開業して新橋-長浜間が全通しますが、この時点での新橋-長浜間の直通列車は新橋、長浜それぞれを午前6時に発車する1往復のみでした(下りの所要時間は15時間)。東海道線が神戸まで全通するのは明治22年7月1日のことです。
 明治23年には同形の機関車10両を山陽鉄道も輸入しており、こちらは山陽鉄道3形蒸気機関車となっています。

 軸配置は「2B形」。すなわち、最初に2軸ボギー式の先輪があって、その後ろに2つの動輪が配置された形態です。外観は、車両側面の点検用の歩み板が動輪の直前からやや斜め上向きに傾いた点など、同時に輸入された同じベイヤー・ピーコック社製のタンク式蒸気機関車である官設鉄道27号形蒸気機関車とよく似た外観を持っていました。動輪の大きさは1372ミリメートルで27号形機関車と同じ、石炭積載量2.57トン、水タンク容量5.66キロリットルでした。

 明治15年に輸入された最初の2両は計画通り日本鉄道で使われました。輸入されてからしばらくは官設鉄道籍のままで日本鉄道に貸し出されている形をとっていましたが、明治25年(1892年)に正式に日本鉄道に譲渡され、日本鉄道の31号機関車と33号機関車となったあと、明治27年(1894年)に日本鉄道の2号機関車と3号機関車に改番されました(日本鉄道3号機はさらに明治30年(1897年)に日本鉄道1号機に改番。それまで日本鉄道には甲1号機は存在しましたが1号機関車は存在しませんでした。明治30年というのは乙1号機が増備された年と同じで、「甲」「乙」のほかに正式な1号機関車に改番されたものと推測されます。これにより日本鉄道3号機関車は欠番となりました。この時点で日本鉄道には1号機関車、甲1号機関車、乙1号機関車と「1番」を名乗る3両の機関車が存在していました。)。
 官設鉄道が輸入した12両は明治27年(1894年)に車両形式によって分類管理するようになった際にR形とされ、R形77号~84号(連番)と86号~92号(偶数番号のみ)に改番されました。のちの鉄道院5300形蒸気機関車にあたります。


日本鉄道時代の明治23年撮影(国鉄80年記念写真集、車両の80年 P51より)

車両一覧

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  • 31号→日本鉄道31号→日本鉄道Pbt2/4形2号→官設鉄道2号(買収)→5300形5313号→東武鉄道28号→廃車
  • 33号→日本鉄道33号→日本鉄道Pbt2/4形3号→日本鉄道Pbt2/4形1号→官設鉄道1号(買収)→5300形5312号→東武鉄道27号→廃車
  • 106号→R形77号→D5形77号→5300形5300号→960形969号→廃車
  • 108号→R形78号→D5形78号→5300形5301号→960形975号→廃車
  • 110号→R形79号→D5形79号→5300形5302号→960形981号→廃車
  • 112号→R形80号→D5形80号→5300形5303号→960形979号→廃車
  • 114号→R形81号→D5形81号→5300形5304号→960形978号→廃車
  • 116号→R形82号→D5形82号→5300形5305号→960形978号→廃車
  • 118号→R形83号→D5形83号→5300形5306号→960形980号→廃車
  • 120号→R形84号→D5形84号→5300形5307号→960形977号→廃車
  • 122号→R形86号→D5形86号→5300形5308号→960形963号→廃車
  • 124号→R形88号→D5形88号→5300形5309号→960形965号→廃車
  • 126号→R形90号→D5形90号→5300形5310号→960形970号→廃車
  • 128号→R形92号→D5形92号→5300形5311号→960形967号→廃車

参考文献
  • 臼井茂信(1956):国鉄蒸気機関車小史,鉄道図書刊行会,PP.83-84.
  • 沖田祐作(2013):機関車表.
  • 日本国有鉄道工作局(1952):国鉄80年記念写真集 車両の80年,交通博物館,P.51.